福岡地方裁判所 平成7年(ワ)621号 判決 1997年1月24日
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
理由
【事実及び理由】
第一 申立て
一 被告大東京火災海上保険株式会社(以下「被告大東京火災」という。)は、原告甲野開発株式会社(以下「原告会社」という。)に対し、金四〇〇〇万円及びこれに対する平成七年三月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告日本団体生命保険株式会社(以下「被告日本団体生命」という。)は、原告会社に対し、金六〇〇〇万円及びこれに対する平成七年三月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 被告日産火災海上保険株式会社(以下「被告日産火災」という。)は、原告会社に対し、金五〇三〇万円、原告甲野花子(以下「原告花子」という。)に対し、金一〇〇〇万円、原告甲野一郎(以下「原告一郎」という。)に対し、金五〇〇万円、原告甲野春子(以下「原告春子」という。)に対し、金五〇〇万円及び右各金員に対する平成七年二月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は、被告らの負担とする。
五 仮執行宣言
第二 事案の概要
本件は、訴外亡甲野太郎(以下「太郎」という。)がダム湖に車両ごと転落して溺死したことから、被告らと傷害保険契約等を締結していた原告らが、被告らに対して、右事故は太郎の運転上の過失によるものであるとして傷害保険金等及び訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
一 争いのない事実及び容易に認められる事実
1 当事者
(一) 太郎は、原告会社の前代表取締役であり、原告花子は、その妻、原告一郎及び原告春子は、いずれもその子である。太郎は、平成四年八月二五日死亡した。
(二)被告らは、いずれも保険を業とする株式会社である。
2 保険契約の締結
(一) 原告会社は、平成四年六月一日ころ、被告大東京火災と次のとおりの普通傷害保険契約を締結した。
(1) 証券番号 三〇二六-〇〇七三九
(2) 被保険者 太郎
(3) 受取人 原告会社
(4) 死亡保険金 四〇〇〇万円
(5) 保険金支払条項 被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に傷害(死亡を含む。)を被ったとき保険金を支払う。
(二) 原告会社は、昭和五五年一一月一日、被告日本団体生命と次のとおりの無配当新定期保険契約を締結した。
(1) 証券番号 〇四八-一四五一三九
(2) 被保険者 太郎
(3) 受取人 原告会社
(4) 災害割増特約災害保険金 一〇〇〇万円
(5) 保険金支払条項 被保険者が、偶発的な外来の事故で、かつ、昭和五三年一二月一五日行政管理庁告示第七三号に定められた分類項目中二〇項目に限定する事故による傷害を直接の原因として死亡したときに災害保険金を支払う。
(6) 免責条項 被保険者の死亡が被保険者の故意又は重大な過失によるときは、災害保険金を支払わない。
(三) 原告会社は、平成二年七月一日、被告日本団体生命と次のとおりの終身保険契約を締結した。
(1) 証券番号 二二〇-〇一四六九六
(2) 被保険者 太郎
(3) 受取人 原告会社
(4) 災害割増特約災害保険金 金五〇〇〇万円
(5) 保険金支払条項 被保険者が、偶発的な外来の事故で、かつ、昭和五三年一二月一五日行政管理庁告示第七三号に定められた分類項目中二〇項目に限定する事故による傷害を直接の原因として死亡したときに災害保険金を支払う。
(6) 免責条項 被保険者の死亡が被保険者の故意又は重大な過失によるときは、災害保険金を支払わない。
(四) 原告会社は、平成四年五月二六日、被告日産火災と次のとおりの自家用自動車総合保険契約を締結した。
(1) 証券番号 五一〇〇五三六六〇一
(2) 用途・車種 自家用普通乗用自動車(福岡三三す七一五〇、以下「本件車両」という。)
(3) 車両保険
<1> 被保険者 原告会社
<2> 受取人 原告会社
<3> 車両保険金 三〇万円
<4> 保険金支払条項 偶然な事故
<5> 免責条項 被保険者(被保険者が法人の場合は業務執行機関)の故意によって生じた損害は、填補しない。
(4) 自損事故死亡保険
<1> 被保険者 運転者
<2> 受取人 被保険者の相続人
<3> 自損事故死亡保険金 一五〇〇万円
<4> 保険金支払条項 被保険者が急激かつ偶然な外来の事故により、その身体に傷害(死亡を含む。)を被ったとき保険金を支払う。
<5> 免責条項 被保険者の故意によって生じた本人の傷害については、保険金を支払わない。
(五) 原告会社は、平成四年一月三一日ころ、被告日産火災と次のとおりの傷害保険契約を締結した。
(1) 証券番号 R一六五〇一五〇三四
(2) 被保険者 太郎
(3) 受取人 原告会社
(4) 死亡保険金 五〇〇〇万円
(5) 保険金支払条項 被保険者が急激かつ偶然な外来の事故により、その身体に傷害(死亡)を被ったとき保険金を支払う。
(6) 免責条項 被保険者の故意によって生じた傷害に対しては、保険金を支払わない。
(六) 太郎は、平成三年一一月二六日ころ、被告日産火災と次のとおりの交通傷害特約付住宅総合保険契約を締結した。
(1) 証券番号 九一六五八〇七七〇四
(2) 被保険者 太郎
(3) 受取人 太郎の相続人
(4) 交通傷害担保特約死亡保険金 金五〇〇万円
(5) 保険金支払い条項 被保険者が急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害(死亡を含む。)を被ったとき保険金を支払う。
(6) 免責条項 被保険者の故意によって生じた傷害に対しては、保険金を支払わない。
3 太郎は、平成四年八月二五日午後七時ころ、本件車両を運転して、大分県日田郡天瀬町所在の松原ダム湖内に右車両ごと転落し、同日午後七時一〇分ころ、同ダム湖内にて溺死した(以下「本件事故」という。)。
二 争点
1 本件事故は、太郎の自殺によるものか運転上の過失によるものか。
(原告)
(一) 本件事故の態様
太郎は、本件車両を運転して国道二一二号線を杖立方面から日田方面に向かって進行し、第一松原隧道の先にある下り坂の約九〇度の左カーブを抜けて直線道路に入る瞬間、ハンドル操作を過って左にハンドルを切り、大分県日田郡天瀬町大字出口三七五八番五号所在の空き地(以下「本件空き地」という。)に進入し、急ブレーキを踏む間もなく本件空き地を突き抜け、松原ダム湖内に転落した。
仮にそうではなくとも、太郎は、休憩のため本件空き地に本件車両を乗り入れ停車させたが、再発進させる際にギアを後退(Rレンジ)に入れるべきところを過って前進(Dレンジ)に入れたため、本件車両を松原ダム湖に向け前進させ、松原ダム湖に転落した。
(二) 被告らの主張に対する反論
被告らは、太郎が、その経営していた原告会社の経営の不振、一億円の残債務及び負債返済のため自己所有の不動産を売却したことを苦にして自殺したと主張するが、右不動産の処分については、金融機関とも協議の上のことであり、残債務については、金融機関と分割弁済の合意ができていたのであるから、太郎としてはむしろ再建の目処が立ち希望が見えてきた段階にあったのであり、太郎が本件事故当時、経済的要因を悲観したり苦痛に思うことはなかった。
(被告大東京火災)
太郎は、本件事故発生当時、その経営する原告会社の経営不振及び原告会社の約五億円の債務整理のため、原告会社の事務所所在地の不動産及び父の代からの所有不動産である自宅の土地建物を売却したが、それにもかかわらず、残債務が約一億円程度残り、さらに、自宅の明渡し期日が平成四年九月三〇日に迫って来たことから、経済的に窮地に立たされ、事業遂行に対する希望を失うとともに自責の念を募らせて自殺を決意し、意識的に本件車両を本件空き地に乗り入れ、しばらく停車させた後、松原ダム湖に向けてゆっくり発進させ、本件車両ごと転落した。
(被告日産火災海上)
太郎は、その経営する原告会社の負債が約五億円以上あったので、不動産を処分して返済にあてたものの、二億円以上の債務が残存し経済的に苦しい状況にあったことから、自殺を決意し、本件空き地に本件車両をしばらく停車させた後、意図的に本件車両を松原ダム湖に向け発進させ、本件車両ごと転落した。
(被告日本団体生命)
本件事故は、自殺行為によるものである。仮にそうでないとしても太郎の重過失による死亡である。
2 保険事故が自殺であることもしくは偶然の事故であることの立証責任
(原告)
公平の見地より偶然性の証明責任は、保険者側にあるというべきである。
仮にそうでないとしても、保険契約締結の際の契約のしおり等による被告らの説明は、単に免責事由を列挙するのみであり、右説明により、保険契約を締結する者は、右免責事由に該当しない限り保険金が支払われるべきであるという期待をもつのが通常である。したがって、右期待的利益を保護する見地から偶然性の立証責任は、被告らに転換されるべきである。
(被告ら)
被告らが原告会社及び太郎と契約した保険は、いずれも急激かつ偶然な外来の事故による傷害(死亡を含む。)及び損害の発生を保険事故とするものであるから、本件事故が不慮の事故すなわち自殺でないことについて保険金請求者が立証責任を負う。
(被告日本団体生命)
原告及び被告日本団体生命との間で締結した前記一2(二)、(三)の各契約には、不慮の事故を、急激かつ偶発的な外来の事故であって、かつ、昭和五三年一二月一五日行政管理庁告示第七三号に定められた分類項目中二〇項目に限定するとの特約があり、右特約及び右告示によると不慮か故意か決定されない溺死は、右各保険契約の保険金支払条項中の「不慮の事故」に含まれない。したがって、本件特約によって、不慮の事故であることの立証責任は、保険金請求者側である原告にある。
第三 当裁判所の判断
一 本件事故は、太郎の自殺によるものか運転上の過失によるものか(争点1)
1 争いのない事実並びに《証拠略》を総合すると以下の事実を認めることができる。
(一) 本件空き地付近の状況
本件空き地は、一般国道二一二号線と松原ダム湖に挟まれた幅約一〇メートルのコンクリート敷きの土地で、本件空き地と国道二一二号線との境には、幅三二メートルの進入口を除いてコンクリート壁が築造してあり、右進入口以外から車が進入することはできない。
他方、本件空き地の松原ダム湖に面した部分は、崖になって水面が繋がっている。本件事故直後、本件空き地の辺縁から松原ダム湖の水面まで車両の通過跡と見られる長さ二七・五メートルの轍が残っていた。右轍は、本件空き地の辺縁から一一・六メートルの地点が最も深く抉れていたが、ブレーキを作動させたと思われる痕跡は認められなかった。
本件現場付近の国道二一二号線は、はみ出し禁止を示す黄色の中央線で仕切られた片側一車線の幅七・九メートルの舗装道路で、右国道上の第一松原隧道を杖立方面から日田市方面に向かって通過すると、道路は左にほぼ直角に曲がっており、その後、直線道路を約一〇メートル進行した先の左に本件空き地の進入口がある。なお、現在、右道路には、ゼブラ状横線及びカーブミラー、矢印板など急カーブの注意を促す表示が多数存在するが、本件事故当時存在したかは不明である。
本件事故直後、本件空き地付近の国道二一二号線及び本件空き地には、スリップ痕及びブレーキ痕は認められなかった。
(二) 本件車両の状況
本件車両が発見された場所は、本件空き地下の崖の水際から水平距離で二〇・八メートル離れた、深さ一二メートルの湖底である。本件車両は、本件空き地からダム湖底に向かう方向で車輪を下にして沈んでいた。
本件車両は、オートマチック車で、窓の開閉が電動式であるが、本件事故直後、松原ダム湖底で発見されたときには、窓ガラスには全く損傷はなく、助手席側の窓が約五センチメートル開いていたのを除いて、すべての窓が閉まっており、また、何れのドアもドアロックを施錠された状態で閉まっていた。
(三) 発見時の太郎の状況
太郎の遺体は、運転席でシートベルトを締めたままで発見され、外傷がなく、体をかきむしるなどの痕跡もなかった。遺体から薬物やアルコールも検出されていない。
(四) 本件事故前の太郎の行動
太郎は、本件事故当時、原告会社の代表取締役であった。
太郎は、平成四年八月二五日、昼ごろ自宅で昼食を食べ、妻の原告花子に那珂川町の工事現場に行き、その後杖立に行くと言って自宅を出た。そして、同日午後四時ころ、暗くならないうちに遠方へ行って来ると言って那珂川町の工事現場から本件車両を運転して出て行った。太郎は、当日杖立に行かなければならない理由について誰にも話をしていなかった。
(五) 本件事故の目撃状況
本件事故当時は、未だ明るく、遠方から車両の色を確認できる状況にあった。乙山松子は、本件空き地からダム湖を挟んで約四五〇メートル離れた対岸道路上から、本件空き地に駐車した車両のヘッドライトが湖水方向に照らされているのを道路わきの樹木を通して見た。右照射は、静止したまましばらく続いていたが、四、五分後、乙山松子は、本件車両がヘッドライトを照射したまま、本件空き地下の湖水面に近い崖面をゆっくり滑り落ちるように転落して入水するのを目撃した。その間、本件空き地に他の車両は存在せず、車両の衝突音や警笛は聞こえなかった。
(六) 原告会社の経営状況
原告会社は、太郎を代表取締役とする土建業者であり、いわゆるバブル経済の時期には、約三億六〇〇〇万円の完成工事高をあげていた。しかし、平成三年九月の決算時には、貸借対照表上約四億円、実質約五億円の負債を抱え、利息の支払が経営を圧迫していた。原告会社は、平成三年から同四年にかけて受注高が減少し、平成三年の売上高は約九二〇〇万円、営業損失は約五八〇〇万円であった。
太郎は、同年、会社合理化のため、従業員を一一名から七名に減らし、さらに、右負債を返済するため原告会社の事務所及び貸店舗の外、太郎が父から譲り受けた土地を含む自宅の土地建物も売却することを決意した。太郎は、同年一二月頃、原告会社及び太郎の所有する土地建物のすべてを四億四〇〇〇万円で売却し、右売却代金で負債を返済したが、それでも一億円程度の負債が原告会社に残った。
原告会社は、平成四年九月の決算時、完成工事高約一億七一〇〇万円、営業損失約六五〇〇万円、負債約一億五〇〇〇万円であった。
2 以上に認定した客観的状況から本件事故が太郎の運転上の過失に起因したものか自殺によるものかを検討する。
(一) 原告らは、太郎が、国道二一二号線を杖立方面から日田方面へ進行するにあたり第一松原隧道の先にある約九〇度の左カーブから直線道路に入る瞬間、ハンドル操作を過って左にハンドルを切り、急ブレーキを踏む間もなく、本件空き地を突き抜け松原ダム湖内に転落した旨主張する。しかし、前記認定によれば、本件事故現場付近の国道二一二号線の道路状況は、杖立方面から日田方面に向かって進行する場合、第一松原隧道に続いて九〇度の左急カーブがあり、それに続いて直線道路を約一〇メートル進行すると左方に本件空き地の進入口があり、それより手前にはコンクリートブロックが存在して、本件空き地に進入することができないという状況にあることが認められる。そうすると、本件空き地に進入するには、第一松原隧道を抜けて左にハンドルを転把して左カーブを曲がった後に、ハンドルを戻し、一旦直進した後、さらに左にハンドルを転把するという操作をしなければならないのであって、太郎が本件空き地に進入したのは、太郎の意図によることが窺われ、原告らが主張するようにハンドル操作を誤ったものであるという状況にはないものといわなければならない。
(二) また、前記認定のとおり、本件事故の発生時刻は、八月二五日という季節の午後七時で、遠方から車両の色を見分けられる程度の明るさがあり、本件空き地と国道二一二号線を隔てるコンクリート壁及び道路の中央線、本件空き地の進入口は、ヘッドライトを照射しなくても十分視認できたのであるから、太郎が本件空き地の進入口を道路と見誤ってそのまま進入したとも認められない。
(三) さらに、前記認定のとおり、本件車両発見時にはギアが前進(Dレンジ)になっていたのであり、原告らは、右事実から、太郎が本件空き地で休憩して発進する際、ギアの後進(Rレンジ)と前進(Dレンジ)を入れ間違えて、そのままダム湖に転落したものと認められる旨主張する。しかしながら、前記認定によれば、転落地点からダム湖の水際まで続いている自動車の轍には、ブレーキ痕がなかったこと、本件車両の転落状況は、斜面に沿ってゆっくりと滑り落ちるような状態であり、脱出の余地が皆無という状態ではなかったこと、さらに、車がダム湖から引き上げられた時点で、本件車両のドアは、いずれもドアロックが施されて閉じられており、窓ガラスも助手席側が約五センチメートルあいているだけで他は閉じられていたこと、太郎はシートベルトをしたままで、外傷等もなかったことが認められる。そうすると、太郎には、脱出を妨げる事情もなかったのに、脱出を図った形跡が認められないことになる。この事情は、本件事故が太郎の運転上の過失によるものであるとすると不自然な事情であり、これは、むしろ、本件事故が太郎の意図に基づいて発生したことを窺わせる事情である。
3 さらに、原告会社の経営状況を検討する。
前記認定のとおり、太郎の経営する原告会社は、平成三年九月の決算時には少なくとも約四億円の負債を抱え、営業損失が約五八〇〇万円あったこと、原告会社の当時の売上高は、いわゆるバブル経済期の受注高と比較して四分の一の約九二〇〇万円であったこと、太郎は、同年一二月ころ、事務所及び貸店舗等の外、父から受け継いだ土地を含む自宅の土地建物も明渡期限を平成四年九月三〇日と定めて売却して、負債の返済に充てたこと、しかし、負債の全額の返済には足りず負債は約一億円残ったこと、残債務については金融機関と分割弁済の合意ができたものの、平成四年九月の決算時には、売上高が約一億七一〇〇万円にとどまったため、約六五〇〇万円の営業損失を発生させ、負債は約一億五〇〇〇万円にのぼったことがそれぞれ認められる。そうすると、太郎は、原告会社及び自己が所有する大半の資産を売却したのに、原告会社には負債が一億円以上残り、原告会社の営業内容も悪化したままであったということができるのであって、この事情からすれば、残債務についての金融機関との分割弁済の合意が有ったことを考慮しても、太郎が原告会社の負債を苦にしており、自殺を企図していたとしても何ら不自然ではない状況にあったということができる。
4 以上の判断を総合すれば、本件事故をめぐる状況は、いずれも太郎が運転操作を誤ってダム湖に転落したことを否定し、むしろ、本件事故が太郎の意思により惹起されたものであることを肯定するものであり、また、本件事故当時の太郎を取り巻く状況は本件事故が自殺であることを窺わせるものである(なお、本件事故を報ずる新聞は、太郎の膝に遺書ではないかと見られる白い便箋があった旨報道しているが、遺書はなかった旨の証人丙川梅夫の証言に照らすと右乙号証は直ちに採用することはできない。しかし、太郎の遺書が発見されなかった事実は必ずしも右認定判断を左右しない。)。そうすると本件証拠関係によれば、被保険者が偶発的又は偶然な外来の事故により死亡したものとは認められず、むしろ自殺したものと認められるから、原告らの死亡保険金及び車両保険金の請求はいずれも理由がない。
二 以上のとおり、原告らの各請求は、いずれも理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野崎弥純 裁判官 渡辺 弘 裁判官 松葉佐隆之)